top of page

6.開発事業者側に対する働きかけ

6.1 概要

 公共事業は別として、一般の開発事業者が行う開発は、自社の利益が目的であることに間違いない。そして当然のことだが、大規模建築物は様々な法令上の基準や規制の範囲に収まるように設計されて許可を受ける。しかし、住民が抱く周辺環境への影響や暮らしへの懸念は、そもそも開発や建設に関する法律上の基準がないものや規制されていない要因で生じる場合が多い。言い換えれば、規制されていない点だからこそ、開発事業者と住民との対立が生じてしまうのである。

 開発計画についての住民説明会等では、開発が安心・安全な、環境にやさしい開発であって、住民が抱く周辺環境への影響や暮らしへの懸念は生じないかようなイメージにつながる説明がなされ、説明資料では、住民の懸念材料に対しては「配慮します。」「努めます。」「する予定」という言葉が付いて回る。将来建設される施設等に関わる開発事業者の考えを示すものなので、はじめから確定的でないのは仕方がないが、こういった説明には、何一つ実施の保証がないことを理解しなければならない。施設完成後に、話が違うとか、こんなことになるとは思わなかったと主張しても、開発事業者も行政機関も責任を取ってはくれない。

 だから、開発事業者が行う説明に対しては、説明された内容を詳細に確認して、具体的にどういうものなのか、どの程度を意味しているのか、それが自分たちの暮らしにどのような影響を与えるのか、を把握できるようにする必要がある。抽象的な内容については、開発事業者に対して質問して具体化する。開発に係る説明を理解する点で大切なのは、配慮したけれども、(努力するけれども、)住民の意向に沿う程度までにはならない場合はどうなるのか、である。

 質問は、遠慮なく、間を置かず、自分たちのペースで、自分たちの言葉で伝えればいい。もちろん、開発事業者が行った説明に対して、専門的な情報や知識を踏まえた質問や追及を行うことができれば、開発事業者の対応のずさんさが現れる場合がある。やり取りは、文書またはメールなど、必ず記録が残る方法で行う。

 

 住民からの不満や問題点の指摘が、計画に大きな影響を与える場合もある。白保の本案件では、2017年4月に行われた住民との開発事業者側との意見交換会で住民からは建設に対して強い疑問の声がでた。ホテル建設計画の企画段階から設計に関与していた東京の企業は、その直後に計画から撤退したことが後に判明した。また、設計会社や工事施工会社への質問も必要に応じて行うべきであり、白保の場合は、開発許可が出された後であったが、工事施工者として申請されていた中堅ゼネコンに対して環境に影響が懸念される工事について公開質問状を送付したところ、「計画地の地域住民の皆様と事業主体であるY₂との間の懸案事項が解決しない限り、弊社が本件プロジェクトの施工者となることはありません。」という回答を得ることができた。

6-1
6-2

6.2 法令に適合しているという“当たり前”ことに胸を張る説明資料

 白保では、地域住民を対象にした住民説明会が2017年7月に行われたが、それとは別に白保地域の自治組織である白保公民館からの要請で、白保地域で環境保全に携わる一部の住民との意見交換会という場が2回設けられた。これは、石垣市の条例(石垣市自然環境保全条例第31条)に基づいて、開発事業者は計画地周辺の市民への計画の周知と、地域の自治組織である白保公民館からの同意の取り付けが求められていることによる。それらに関連して、やり取りされた資料と質問の一部を紹介する。そもそも法令の基準に適合しなければ開発許可を得ることはできない。説明会とは、実は適用される法令を説明するだけに過ぎない。

(1)(仮称)石垣島白保ホテルプロジェクトの説明会資料の検証

1. 当然のこと(法令遵守等)なのに、“やってる感”を出す説明の具体例

  • 「「石垣市風景づくり条例」を遵守し・・・」

  • 「「沖縄県赤土等流出防止条例」に基づき、(中略)対策を行います。」

  • 「汚水排水処理については、関連法令及び八重山保健所より指導を受け、厳しい環境基準に対応した窒素・リンの除去が可能な「膜分離高度処理浄化槽」にて処理を行い、敷地内での中水利用を予定しております。」

​​浄化槽排水の地下浸透処理を行う場合に必要な県の基準に適合している浄化槽を選定しているだけ。決して環境保全のために特殊な浄化性能を持つ浄化槽を積極的に選択したわけではない。

また、法律上、し尿を原水とする中水利用はできないことが後から判明している。

  • 「開発期間中に新たな文化財が発見された場合には、関係行政と協議の上適切な保護を行うように努めます。」

  • 「本件敷地に面する海浜域に面する地元の皆様の既得の漁業権を一切侵害しないことをお約束します。」

侵害すれば違法なので、言うまでもないこと。

2. 開発事業者自らが実施したい計画を、住民のためのように言い換える例

  • 隣接する保安林内の通行については、事業者の占有のためには認められないところ、
    「白保区の過去の利用状況を踏まえて地元の皆さまの「公共の用」に寄与するものと考えております。」

周辺には住居もないので居住者はいない。アクセスのよいビーチでもなく、貝や海藻などを採る浜でもないので、通行に利用する住民もいない場所であり、保安林の通行を確保することが「公共の用」に寄与することはありえない。住民の利用を根拠に保安林の通行を行政に認めさせようとしているように見える。

(2)2017.4.12 の説明会で住民から出された質問に対しての回答(抜粋)

開発許可を受けた計画の設計会社(本社 那覇)から、回答として送付されたメールより抜粋

あり得ない対策が提案されていて驚かされる。

ウミガメの産卵時期の外灯による光害対策について

48284.png

「近接する浜はウミガメの産卵がある。ホテルからの光による産卵行動への悪影響が懸念される。対策は?」

住民

「ウミガメの産卵と孵化の時期は、外灯を消したり、光の方向を変えたりする対策を施します。」

46477.png

ウミガメの産卵時期は、4月から9月。約2か月で孵化する。ということは、4月から11月までは、外灯を消したり、光の方向を変えたりするのか?

​事業者

台風後の光害対策について

3363.png

「保安林の高さを考慮して、ホテルの室内の光が保安林に遮られて、海まで届かない設計にしているというが、石垣島は夏の台風で、保安林が倒れたり、葉が飛ばされたりするが、その場合どうするのか?」

住民

「保安林が、台風などの自然災害により倒木などの被害を受けた場合についてもご懸念がありましたが、室内には遮蔽性のあるカーテンを設置し、海側へ人口光が漏れないようにするとともに、産卵時期は、お客様にアナウンスのうえ、夜間には遮蔽していただくよう周知徹底をいたします。」

46477.png

リゾートホテルなのに、ウミガメの産卵時期の4月から9月に満天の星空の夜でも厚手のカーテンを閉めるように、宿泊客にアナウンスするのか?宿泊客は納得して従うと考えているのか?

​事業者

6.3 開発事業者への抗議

6-3

 常に質問や要請をしているだけではなく、相手方に明らかに非が認められる場面では、直接抗議をすることも重要である。ただし、第三者から見て、共感できる内容の抗議でなければならない。根拠のない批判や誹謗中傷をしてはならない。

(1)意見交換会での抗議

 2017.04.12に住民との意見交換会が開催された。

住民からの「なぜ白保にホテルを建設するのか?」という問いかけに対して、開発事業者の代表(当時)は、「素晴らしいサンゴを県外いろんな方に知ってもらう、共有しながらみんなで環境を考える場、環境保全を発信していきたい。」と回答した。

 

 この回答に対しては、「地域に寄与したいというならばホテルを作らないでほしい。保全をしたいというが、白保には「白保魚湧く海保全協議会」や「NPO夏花」などの団体がすでに保全活動している。保全したいというならホテルは作らない方がいい。」と抗議

 「石垣島の中での白保の立ち位置、30年の歴史を知っているなら、石垣の住民なら、よけいに白保に建てようとは思わないのではないのか。」と、白保の過去のつらい歴史を承知しているにもかかわらず、開発で環境保全を発信していくという社長の矛盾した見解に多数の批判的な声が上がった。

結果的に、この意見交換会でのやり取りを受けて、当初企画・設計を担っていた会社は撤退を決めたとされている。それほど住民からの抗議の声が厳しかったといえる。

 意見交換会でのやり取りは、議事の録音とその書き起こしメモが残されている。

(2)文書での抗議

 白保リゾートホテル問題連絡協議会からは、開発事業者Y₂に対して抗議文書も2回送付された。1回目は、開発許可を出さないように沖縄県に陳情の署名を提出した際に提出。2回目は、指摘された問題点を解決できないまま回答と称して主張していることに対しての抗議と、根拠のない理由を付けて住民からの質問に対する回答を避けていることに対しての抗議であった。

 

1回目  2017.12.06

2回目    2018.05.02

(3)その他の抗議

 私たちは取り組まなかった抗議手法として、看板や横断幕がある。効果的な定番の抗議手法だと思われる。私たちが取り組まなかったのは、白保地域の暮らしの中に争いのしるしを出すことは、過去の空港問題を思い起こさせる可能性があったことが理由のひとつである。

6.4 設計者や工事施工者への質問状

6-4

関係者とはいえ、住民に対して直接接点がない相手方に対して突然抗議することは、社会的に共感を得られる対応とは言えない。「4.公開質問状について」で述べたとおり、関係企業に対してもしっかり準備したうえで社会的責任を問う質問状を送付することは有効である。

bottom of page