5.県や市に対する働きかけ
5.1 概要
行政機関に対する働きかけは、開発計画に関わる情報収集と質問及び要望に大別される。都市計画法では、「国及び地方公共団体は、都市の住民に対し、都市計画に関する知識の普及及び情報の提供に努めなければならない。」(第3条第3項)と定められている。また石垣市では、条例よって「市政に関する市民の意見、要望、苦情等に誠実、迅速かつ的確に対応するとともに、その結果について速やかに市民に応答しなければならない。」と定められている(石垣市自治基本条例第23条第1項)。国でも県でも積極的に質問して教えてもらわなければもったいない。
(1)事前確認
地方自治体などの行政機関は、その権限や職務の範囲が法令で定められている。一般的に、行政手続きに関しての質問は所管する行政機関・部署宛に行い、要望は行政機関の長(県知事や市長)宛に行えば的外れになることはない。まずは自分たちの直面している問題にかかわる手続きや許認可を所管している部署はどこなのか、その部署では開発許可についてどのような手続きを行っているのかを確認してから質問や要望を行うことが必要で、効率的である。
(2)公文書開示請求
法律に基づいてそれぞれの自治体で情報公開制度が整備されているので、その制度を利用し、必要な情報を入手して質問や要望の基礎資料にする。請求前に担当部署に関連書類や手続きについて説明を聞き、文書を特定して請求する。自治体によっては、開示文書のページ数が多い場合は、紙のコピーではなくCD-ROMやDVDなどで公開される場合もある。
具体例
「○○会社が、✖✖番地で計画している開発行為に関する事前相談の記録すべて」
「▲▲番地について△△会社による開発行為許可申請書類一式」
(3)目的・狙い
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第一には、住民が行政手続きや法令の適用・解釈について、懸念や疑問を解決し、また、それらを解決するための施策を行政機関に要求する。
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第二に、開発許可の審査には市民の厳しい目が向けられていることを行政機関に知らしめる効果を期待して行う。そもそも行政機関が行う審査は、通常、法令で定められた基準に照らして判断されるが、全ての基準が数値化されているわけではなく、基準が抽象的であいまいな場合もある。審査中の案件に住民から関心を寄せることで、監視効果によって厳格な審査が期待できる。
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第三に、さまざまな項目に対する行政機関の見解を明らかにし、回答によって見解が文書化されることで重要な証拠資料とすることができる。
(4)留意事項
①地域の行政機関への質問や要請は、必ず押印した書面で提出すること。
行政機関は、受け取った文書を勝手に破棄できない。また、開発許可に関わる問題に関しては、国や地方自治体は市民からの質問に答えたり、情報の提供に努めなければならないことが都市計画法で定められている。そのため、どのような回答があるかは別にして、質問は書面で提出することで何らかの対応が行われる。書面には必ず押印する。もし、書面での質問が無視されるようなら、なぜ期限までに答えられないのか、という質問をして、それでも回答がないようなら、行政機関が法に反して市民からの質問に対応していないことを記者会見などで公けにするという手段をとることになる。
②質問状や要請書については、期限付きで回答を求めること。
回答期限の目安は2週間程度。但し、要請については回答を求める必要がない場合もある。
質問や要請を提出したことを公に周知すること。
③周知するためには、地方新聞などのメディアに掲載されるように記者会見などを行うこと。
記者会見は、通常、各県庁に記者クラブがあるので、ホームページ等で記者クラブに会見の予約を入れ、必要なことを問い合わせる。会見の際に留意するべき項目は7.1にまとめた。
④行政機関と無益な対立をしないこと
公共事業でない限り、地方自治体などの行政機関はあくまで法令の執行機関なので、質問や要請は礼節をわきまえた表現で行うべき。仮に担当者が不遜な態度をとっていたとしても、それを開発行為に関する質問状等で非難しても得るものはないし、批判的な文書の一部の表現を切り取られて活動を中傷されるリスクも生まれる。あくまで、一般市民が行政サービスを受けているという形を維持しながら、必要な情報を得ていく。
⑤差出人についての説明を加える
差出人が個人ではなく、地域住民の団体や組織である場合、文書が独り歩きすることを考慮して、その団体や組織についての説明を加え、要望書や質問書が地域住民の意思表示であることを明示する。
5.2 質問書・要望書の参考例
当会からは行政機関に対して質問書や要請書を提出していないので、白保リゾートホテル問題連絡協議会から提出された文書を紹介する。
石垣市に対しての要望書
沖縄県に対してのeメール文書
いずれも白保リゾートホテル問題連絡協議会のホームページでは「これまでの経緯」>「資料一覧」に提出済み文書が掲載されている。ただし、掲載文書はあくまで参考例であり、質問書や要請書の形式や表現として正しい見本として紹介するわけではないことを断っておく。また、「資料一覧」に掲載されている文書の中でもこの問題に取り組み始めた当初に作成した文書は、書式が洗練されておらず、文章もわかりにくい。数多くの要望書等を作成するうちに少しずつ見やすくコンパクトにまとまった文書になった。
5.3 開発許可の権限や手続きについて
都市計画法に基づく開発許可は、開発計画地が都市計画区域か否か、規模(面積)などの要件によって、必要か不要かが決まる。また、計画地が含まれる自治体が、地方自治法が定める指定都市または中核市である場合、建築主事が審査を行い自治体の長が許可権を持つ仕組みになっている。たとえば、計画地が石垣市内の場合は、沖縄県知事が許可権を持っている。石垣市は中核市ではなく建築主事がいないが、計画地が那覇市内の場合は、中核市なので那覇市長が許可権を持っている。まず実際に地域の行政機関に確認する必要がある。
5.4 公文書が不開示とされた場合の審査請求
(1)県の情報公開制度と審査請求について
国のいわゆる情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)にもとづいて、沖縄県をはじめ各地方自治体には情報公開制度があり、これを利用して公文書の開示請求ができる。公文書は「開示」が原則で、公文書が不開示とされる場合の要件は条例で厳しく定められ、不当に不開示とされた場合は審査請求を行うことになる。
しかし、裁決が出るまでには案件によっては1年以上かかる場合があるため、必要な公文書や情報が不開示となった場合、審査請求は当面必要な情報を得るための手段としては有効とはいえない。とはいっても、条例に反して公文書が不開示とされた際に審査請求をおこなわなければ、その不開示処分を認めることになり、それが前例となってしまう。重要な公文書や情報の不当な隠匿を阻止し、行政手続きを改善するためには必要な手続きであるといえる。
沖縄県の情報公開制度
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(いわゆる情報公開法)を背景に、沖縄県情報公開条例に基づいて定められた制度。
沖縄県情報公開条例とその運用及び手続については「情報公開事務の手引き」が詳しい。
(2)白保リゾートホテル問題に関わる審査請求について
県は、白保リゾートホテル建設に係る「開発許可通知書」をすでに一度開示していたにもかかわらず、あとから他の地域に出された「開発許可通知書」の開示請求を行ったところ、一転して不開示と決定した。他地域の「開発許可通知書」の開示請求を行った理由は、当時、白保リゾートホテル建設に係る開発許可の取消を求める別の審査請求を行っていて、白保の「開発許可通知書」と他地域のものとの記載事項の違いを検証しようとしていた。詳しく調べられることを阻むために、一度開示された文書を不開示とする前代未聞の処分が行われたとも思える。
①県による不開示決定処分の問題点
(ア)不開示とした理由が条例に違反している
(イ)不備や矛盾を指摘すると、通知書の記載や不開示理由まで変更し、差替えを求めた
(ウ)以前行った開示処分を撤回せずに、同じ文書についての開示と不開示の相反する処分を両立させてしまった。
②経緯
<最初の開示請求>
平成29年3月28日
沖縄県から開発許可が出される
ホテル建設予定地の「開発許可通知書」が開示される
5月 2日
白保リゾートホテル建設差止訴訟 提訴
排水計画に係る証拠として「開発許可通知書」を提出
<建築差止訴訟>
令和1年 9月19日
令和2年 3月 3日
同 請求を却下する判決
判決では、開発許可を受けた計画は、排水に関わる許可条件が満たせず建築確認を受けられる見込みがないことが示された
<開発許可の取消を求める審査請求と「開発許可通知書」を追加の開示請求>
令和2年 3月27日
上記判決を受けて、開発許可の取消を求める審査請求を行う
沖縄県開発審査会での審査が行われる
令和2年 4月22日
証拠集めとして「開発許可通知書」の公文書開示請求
5月 7日
5月15日
審査請求を却下する裁決が下される。
却下の理由は、不開示決定から審査請求までの期限を超えているからという形式的なものだった。
<不開示決定に対しての審査請求>
令和2年 5月11日
不開示決定通知における条例解釈の誤りを指摘
県は誤りを認めて謝罪
5月15日
訂正・再発行された不開示決定通知について、新たに条例解釈及び適用の誤りを指摘
5月29日
上記指摘を受けて、不開示決定処分の理由を変更して再発行
変更された理由が条例違反であると考えたため、県に対して指摘を行ったが撤回する意思がなかったため、やむを得ず審査請求を行った
7月16日
不開示決定に対して不服があるとして沖縄県知事に審査請求
9月16日
沖縄県情報公開審査会に諮問される
令和3年 3月26日
沖縄県情報公開審査会より「開示すべきである」という答申が出される。
その約2か月後に開示が行われた。
(3)公文書が違法に不開示とされた場合の確認点
一般的に個人や企業の情報について、「開示することにより個人及び法人の権利・利益を損なうおそれがあるため」という理由で部分的に不開示とされて黒塗りされたり、公文書自体が不開示とされる場合が多い。しかし、実はこの点が一番グレーで行政側の恣意的な判断で処分が左右されやすいので、その理由が正しいのか確認が必要になる。白保リゾートホテル問題に関連して公文書を不開示とした際の理由と、白保の「開発許可通知書」の不開示決定に対して沖縄県情報公開審査会がどのような評価を与えたかをまとめた。
①公文書は開示する義務があるが例外がある。しかし、その例外にも例外がある。
沖縄県情報公開条例
第7条 公文書の開示義務
実施機関は、開示請求があったときは、開示請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該公文書を開示しなければならない。
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法令又は条例(以下「法令等」という。)の規定により、公にすることができないと認められる情報
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個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報 に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(文書、図画若しくは電磁的記録に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項をいう。次条第2項において同じ。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、 特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次 に掲げる情報を除く。
(ア)法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
(イ)人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
(ウ)(省略)…個人が公務員等である場合… -
法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下 「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公に することにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。
つまり、個人に関しての情報であっても「公にされ、又は公にすることが予定されている」か、「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる」情報であれば、開示しなければならない。また法人に関しての情報の場合、「当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」であっても、「人の生命、健康、生活は又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる」情報であれば、開示しなければならない。
②「権利利益を害するおそれがある」という都合の良い理由を覆す
公文書不開示決定通知書(令和2年5月7日付 5月29日修正差替版)には第7条第2項及び3号の適用理由として(ア)「開示することにより個人及び法人の権利利益を害するおそれがあるため」と記載されている。また県は、沖縄県情報公開審査会によるヒヤリングに対し、(イ)「工事着手及び完了年月日を開示することにより、反対するものから妨害を受ける可能性がある」等と主張している。しかしこれらの理由には根拠がなく、認められないことは以下のとおりで、特に「反対するものから妨害を受ける可能性」についての沖縄県情報公開審査会による評価は、行政の恣意的な不開示処分を抑止することに有効であり、貴重だ。もし今後、同様の理由で不開示とされた場合には、この答申を証拠として審査請求を行うことが考えられる。
(ア)について
「開発許可通知書」に記載されている情報は、都市計画法に基づいて開発登録簿に記載されている。開発登録簿というのは、「都道府県知事は、常に公衆の閲覧に供するように保管し、かつ、請求があったときは、その写しを交付しなければならない。」と定められている(都市計画法第47条第5号)。つまり、「開発許可通知書」に記載されている情報はそもそも別の文書となって公開されているのである。それがわかっていながら、公にされているとは言えないからただし書の例外には当たらないと県は主張した。
これに対して沖縄県情報公開審査会は答申で、「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当し、「開示すべである。」と結論付けている。
(イ)について
「工事着手及び完了年月日を開示することにより、反対するものから妨害を受ける可能性がある」という主張に対しては、「当該主張はあくまで可能性を述べたものであり、工事着手及び完了予定年月日を公にすることにより、当該妨害を受けるおそれが、特段、具体的に生じるものとは認められない。」と断じている。